コラムColumn

付録 熱力学

Vol.19-24

2026年07月21日

付録 熱力学

この記事の内容

付録 熱力学

この付録の説明は、物理学の専門知識を持たない読者を対象としています。そのため、直感的な理解を重視し、一部の専門用語をより分かりやすい表現に換えています。

熱力学は社会現象と重なるとずっと前から直感していた。なぜそう思うのか答えが見つけられていなかった。
熱力学というのは入門のところから難しい。やればやるほど難しい教科書に出会った。熱は移動して、エネルギーを外部に放出する。または外部からエネルギーを流入させ熱を作り放出する。これらの流入と放出が社会現象をよく映し出していると直感していた。
本コラムでは、その熱力学を説明して、その理解の後に、私の直感を説明しようとした。しかし、熱力学は入門だけでも人には説明できないと思った。熱力学を教科書の通り説明しても普通の人は理解できない。逆に、誰でも分かる説明ができないのは、自分自身の理解ができてないからだと思った。記憶してるだけで、理解していないからだ。
だから、直感的に理解させるくらいに私自身が本質を再考することになった。その結果、教科書から離れた独自の説明を考えだすことになった。
おかげで私自身がすっきりした。これは熱力学の説明がコラム最後の付録になった理由でもある。

1. 社会現象が見える熱力学入門
まず、熱力学に登場する言葉から説明してみる。

1) 熱エネルギーについて
記号Qで表す。エネルギーに形はないが量がある。量があるものは足すと増える。熱容量Cと温度Tの積で表現するQ=CTの線形表現は一番重要だ。この表現はすべての事象に通じる。
熱を蓄える入れものの容量Cを増やすとエネルギーは増える。同じ温度Tのものを増やしても温度Tは変わらない。

2) 仕事エネルギーについて
無駄なく外に取り出して利用したり、流入させたり、蓄積できる仕事エネルギーを記号Wで表す。
バネに蓄えるエネルギーや電池、回転ホイールに蓄積する運動エネルギーなど、散逸させず利用できるエネルギーがWに相当する。
熱力学は歴史ある学問で、発達時代は、今の電気モーターなどはない時代なので、熱力学の教科書ではピストン運動のように一方向に動く機械で、蓄えたり、放出できるエネルギーを説明している。
無駄がない(摩擦などを考えない)なら仕事エネルギーWの移動や蓄積は可逆的にできる。無駄がないという理想、または可逆的な熱移動が仮定されている。
可逆的な仕事エネルギーWは蓄積、放出が可能で、熱エネルギーに無駄なく変換できる。何にでも変換できるという意味で、社会と関連させるなら仕事エネルギーWはお金に相当する。

3) 温度について
記号Tで表す。熱エネルギーは一定温度Tの「もの」が一定量あるというモデルで表現される。一定量の「もの」は「熱容量」という言葉で表現する。温度Tの「もの」が増えると熱エネルギーは増える。温度Tは「もの」を増やしても変わらない。Tは温度という質を表す。温度Tを宿す「もの」は、理想気体なら気体分子(粒子)になる。「もの」が固体なら格子の振動という「状態」でもある。
「もの」は「状態」の集まりと考えれば、熱容量という言葉は「もの」の量を表す物差しになる。  
             
4) エントロピーについて
記号Sで表す。熱を蓄える状態の量を表す。気体なら温度Tで振動している分子状態の数に相当する。熱エネルギーQを、温度Tの状態が何個あるかという表現ができる。従って熱エネルギーQを温度Tと量Sの積Q=STで表現できる。状態は熱の入れ物、エントロピーSは入れ物の数または量というのが直感的な熱エネルギーのモデルである。
エントロピーという用語は情報の煩雑さを表す言葉としても使われる。情報のエントロピーも情報の状態の数を表すので、用語の意味は「煩雑さ」という意味にも使われる。この言葉は入門説明の最後に熱容量に結びつける。分からなくても直感的に分かったつもりで進み、後で考え直すことを勧める。

5) 熱容量について
記号Cで表す。熱を宿す入れ物の量を表す。温度と熱エネルギーの関係をQ=CTと中学生のとき習った。温度を1度上げるとき、必要な熱のエネルギーを表す言葉として比熱というのを覚えた。このとき、比熱は物質の固有値であり、物の量が一定なら定数であった。
熱力学では、熱容量は定数でなくその量が変化できる熱の入れ物として扱う。ここが中学生時代と違う。式の類似性からエントロピーの意味に近いのでは、と直感するだろう。熱容量は仕事エネルギーを取り出すガソリンエンジンなら、爆発が動かすピストンとシリンダー、放熱の時はシリンダーの冷却器の能力に相当する。ピストンエンジンならピストンが動くので一定ではなく、ピストンの移動に伴い変化できる熱を宿すものの量である。このメカニズムは無視して「熱を宿す能力」と概念的に飲み込めばいい。

以上の用語を使って、熱力学の大事な法則「低温の物体から高温の物体に熱は自然に移動しない」という第ニ法則に近づいてみる。
これは当たり前に感じる法則だ。しかし、これから導かれる原理は社会現象を見えるようにする。
だが、当たり前のことを説明するのはいつも難しいものだ。エネルギー保存の法則は大抵の人が既に理解してる第一法則だ。当たり前なのに説明しにくいのが熱力学の第ニ法則だ。
これを書いていると、大学院の入学試験に出た問題:オームの法則「V(電圧)=R(抵抗)xI(電流)を証明せよ」を思い出す。当たり前を証明するのは難しい。私は答えをだせなかった。
自然に、熱は低温から高温に移動しない。これは常識だし、当たり前だ。
しかし、外部からエネルギーを使って操作をすれば、低温物体から高温物体に熱を移動できる。身近な冷蔵庫も空調機の冷房も電気という仕事エネルギーで動く機械で熱を低温から高温に移動させて、低温を作り出している。この法則の道理を身の回りにある社会現象に対応させてみると、類似性がある。その類似性は社会現象を説明する。それは、既に本コラムの第3章で述べたところだ。だが熱力学の教科書の第二法則の説明は難しい。それゆえに、本コラムではこの法則の説明を後回しにして付録にした。
付録として後回しにしたから易しくなるわけでないが、社会現象との比較を既に1章から3章にわたってやっているので、その知識が読む気にさせるはずだ。

まず「真実」と「表現」の関係(本コラムの第1章で説明した原理)で、熱力学の第2法則の説明を始めよう。
「低温の物体から高温の物体に熱は自然には移動しない」という否定形の真実は形のある表現にできない。それで、肯定する言い方に変える。意味を変えない肯定文で真実を表現する。即ち、対偶の関係にある「外部からエネルギーを補給するなら、低温から高温の物体に熱エネルギーを移動できる」と肯定表現に言葉を変える。
これも当たり前の話に変わりない。どのくらい、エネルギーを外部から補給する必要があるかを表現すると、この補給が無いなら低温から高温に熱エネルギーは移動できないという表現になる。
この補給エネルギーを取り入れて、肯定的に表現させて、具体的にエネルギーを移動をさせる熱機関を考えることができた。その熱機関をつかって高温から低温、低温から高温に熱を移動させ、仕事エネルギーを外部に放出、外部からエネルギーを入力させる実験をする。第ニ法則の真実が補給エネルギーを伴う表現に変換される。第1章の真実と表現の原理がここで再び理解力になる。

熱力学の標準的な教科書では、理想気体を媒体とするカルノーサイクルを熱機関としてして用いて、熱の移動を説明する。
圧力と体積の変化で仕事エネルギーを外部に移動させて、熱を高温物体から低温物体に移動させ、外部に仕事エネルギーを取り出す。理想気体を使い、損失の無い可逆動作をさせている。これは熱の利用効率を最高にさせる特殊なケースになる。このときの熱移動と温度の関係を教科書は説明している。この関係からエントロピー増加の無い理想的な可逆サイクルに対応した熱エネルギー移動と温度の関係が導かれる。
教科書には書いていないが、この可逆モデルでは、外部に取り出した仕事エネルギーを使って、熱の逆移動も可能である。このことに気が付かないために、全体の理解を困難にさせていたと、今なら思う。
現実には損失がある。また、時間の向きが反対の可逆移動も実際にはない。温度差が無いのに熱が移動するのも無い。あり得ない理想的な熱機関の教科書モデルでは何か理由は分からないが納得していなかった。だから熱力学は難しいものだった。意味を理解してなくても、教科書を100回読むと記憶されてしまい、理解した気分にさせる。しかし、理解していないと、普通の人に説明できない。普通の人は100回も読まないからだ。
何度も、本質を理解しようとして腐心していたとき、ひらめいた。理想的な可逆熱機関カルノーサイクルでは取り入れない損失エネルギーを取り入れた熱機関模型がひらめいた。失って戻らないエネルギーがあることは自然には逆戻りしないことを意味する。
起きてしまって戻らない「無駄なこと」、「効果のないこと」、「疲弊すること」、「取返しのつかないこと」、「不可逆なこと」「覆水が盆に返らいこと」「背が伸びてしまうこと」「年を取ってしまうこと」等の現象に対応させられる損失エネルギーがあれば、それと社会現象が対応すると考えた。
これなら説明ができると直感した。説明可能だと直感した理由は、無意識に損失エネルギーと不可逆性の関係を意識していたからだ。
損失エネルギーを取り入れた熱機関を用いることを思いついたら、説明の難しさが消えた。コラムの説明は直感から始めたのだが、最後の付録のところまできて、私自身が理解していなかった重要なところが分かった。大学を卒業した後も続いた長い間の熱力学の溜飲が今になって下がった。

2. 熱力学入門を簡単にする熱機関の模型
損失を取り入れた熱の出入りとエネルギーの出入りをさせる熱機関の模型を用意した。このたどり着いた熱機関が熱力学と社会現象との関係を説明できるようにさせた。教科書に出てくるエントロピーという難解な言葉を使わずに説明できる。理解ができた最後のところで、エントロピーという言葉を当てはめて、再度見直す。そこまで来たところで、エントロピーの意味が自然にわかるはずだ。
同時にそこで、熱力学の入門を理解することになり、熱力学を社会現象に重ねることができる。社会現象を感覚で理解してから、最後にその理解を熱力学に当てはめたことで、逆に熱力学を納得できる。一般の人が熱力学を理解してから社会現象を理解するのは無理な道筋だ。本コラムでは普通とは逆の順序で説明を構成したので、理解の道筋ができたと思う。

この熱機関の模型の説明では、熱源から熱が移動することの表現が基本になる。
基本になる熱エネルギーQの移動を温度Tと熱容量Cの掛け算:Q=CTで表現する。熱移動のイメージを頭の中に描くために、理想気体の膨張をモデルとして説明する。
付録図-1はピストンとシリンダー機構を熱源に接触させて、気体を膨張させる模型である。膨張することで外部に仕事エネルギーを出力する。外部に機械的な仕事エネルギーを熱エネルギーが変換される仕組みになる。これが熱移動の基本的な動作を表す。
この基本的な動作は思考実験なので、いくつかの仮定がある。現実には避けられない損失エネルギーが発生しない仮想的な動作である。例えば、同じ温度なのに熱が移動するという、仮想的な熱移動がそれだ。仮想的なことが可逆的に時間に関係なく起きることを仮定している。
この仮定を付録図-1は説明しているのだが、納得するために、付録図-1を補足して説明する。

付録図-1 温度Tの熱源から熱の通路を通して気体に熱を供給してピストンを動かす仮想実験の模式図。
周から理想的に断熱されている。無限時間をかけて移動通路から熱Qが供給される。体積V1の状態からV2にまでピストンが移動したときに供給した熱Qを計算できる。
シリンダーの中を理想気体として状態方程式PV=RTを使ってQ=W=RTln(V2/V1)と計算される。Rln(V2/V1)を体積変化による熱容量(可変熱容量)Cとして扱いQ=CTと表現する(補足説明を参照)。

【補足説明】

この仮想ピストン模型を使った気体膨脹の熱移動と仕事を計算する。理想気体の状態方程式があるのでこれを受け入れる。Pは圧力、Vは体積、Tは温度を表す(これは高校の教科書にある)。

   PV=RT Rは気体常数 (簡単にするために気体分子の数を示すモル数nは省略)

この模型実験では仮想的に完全断熱されていて損失がない。熱が温度Tのまま気体に伝わり膨張させる。1から2の位置まで動くピストンが外に仕事Wをする。移動した熱エネルギーQと仕事Wにはエネルギー保存則が成り立つ。
         
   Q=W    (エネルギー保存の法則)

膨張による仕事Wの大きさを計算する。外に出力する微小な仕事dWは膨らみの微小な体積変化dVをつかい

   dW=PdV 

と表現される。外に出力した仕事エネルギーWは1の位置から2の位置までdWを積分して得られる。

   W=∫dW=∫PdV=RT∫dV/V=RTln(V2/V1)

ピストンが位置を変えて構造が変化することで理想気体の体積が変化して熱エネルギーを受け取る。ピストンの構造は、体積変化で熱エネルギーを受け取るもの、即ち、可変熱容量と機能している。

損失無く可逆的に移動させたのでエネルギー熱Qと仕事WはQ=Wの関係にある。この表現を変えると

   Q=RTln(V2/V1)

この関係から熱エネルギーQを体積変化による熱容量Cと温度Tを用いて

   Q=CT
    
   C=Rln(V2/V1)

と表現できる。この表現は熱Qが熱容量Cと温度Tの線形な掛け算の形になり、可逆な熱移動の基本式になる。
可逆ということは外から仕事エネルギーWを与えてピストンを押し戻すと熱Qは温度Tの熱源に戻せることを意味する。熱力学の用語のところでエントロピーSを説明した。そこでは教科書の定義

   Q=ST

を説明した。用語説明の段階でエントロピーSのことを説明しても理解が難しい。後で分かればいいとして、ここで対応を説明した。
ここまでの説明で少し直感できたと思う。熱を宿すものの体積変化は可逆なので、Wの仕事エネルギーを外部から入れて元の姿または状態に戻せる、という意味になる。1から2への変化が可逆なら、その過程のすべてが可逆で等価だということになる。Wを散逸させて失うと、元に戻るためのエネルギーを失う。
人の社会では資金を失い、歳をとり、疲弊したり死亡することに相当している。熱力学が社会現象に重なるのは、この逆戻りさせない失うエネルギーがあるからだ。

【補足説明終わり】

可逆に熱が移動するQ=CTという線形表現には、移動に要する時間が現れない。
現実にはシリンダーと熱源の微小な温度差と熱の移動通路の熱伝導度という抵抗があるので移動に要する時間がある。しかし仮想的に可逆な熱移動なので温度差は無限に小さい。無限に温度差がないので時間は無限に長い。
本模型の熱移動は無限の時間をかけて熱が移動する仮想的な可逆な熱移動を表現する。可逆なら、出力した仕事Wでピストンを押して、ピストンを元の位置に戻し、熱を逆移動させて元に戻せる。
完全に断熱されて、ピストン移動の損失もなく、熱移動も無限に長い時間経過を仮定した可逆な動作は現実には存在しない。よってQ=CTという表現は時間依存のない仮想的な熱エネルギー移動を表現する唯一の基本式になる。
唯一なので表現ができた。いく通りもあると表現できない。私の読んだ教科書では仮想的な唯一のことを述べているのに、本質的なことに触れない。物理学者には本質が当たり前だったのかも知れない。もし、まえがきの位置づけで解説があれば、熱力学も解釈しやすいものだっただろう。
ロシアの物理学者にランダウリフシッツがいた。彼の力学の教科書をよんだ。この本のまえがきは、味わい深く、まえがきを何回も読んだ。中身で分かりづらいところがあると、まえがきに戻って分かろうとした。
仮想的な可逆動作は一つしかないので数式で表現できる、と言うのが補足説明の最大の意味になる。補足説明で得た仮想的な熱エネルギーを表す式:Q=CTは熱機関の可逆熱移動の基本式になる。

基本式:Q=CTをもとにして、熱エネルギーを取り出す熱機関を考える。
熱力学の教科書の熱機関(カルノーサイクルの熱機関)がある。これを使って熱エネルギーの利用と社会現象を結びつけるのは、できなかった。
関係を直感させた教科書であるが、社会現象と重ねられない。時間がかかったが、新しい熱機関を考案した。
真実として社会には無駄や損失があるし、起きてしまったら、もう元に戻れないという時間の不可逆性がある。この真実に可逆熱機関のカルノーサイクルは触れない。だから教科書の熱機関は社会現象の説明に使えないことに気が付いた。
そこで、社会の損失や老化に相当する、不可逆の根本、即ち損失を組み込んだ熱機関模型を考えた。この模型をFURUMURAの熱機関として付録図-2に示す。

付録図-2 FURUMURAの熱機関模型。
熱機関が高温熱源から熱Q1を吸収し、低温熱源に熱Q2を放出し、外部に仕事ネルギーWoutを出力する行きの動作と、外部から仕事エネルギーWinを入力して、低温熱源からQ2を吸収し、Q1を高温熱源に放出して戻る帰りの動作を行う熱機関模型の一巡動作を示す。
Cin, Coutは熱機関の熱の吸収と放出の能力を示す「可変熱容量」である。外部出力エネルギーWoutに損失エネルギーLを加えたWin=Wout+Lを入力して、熱の一巡動作が終わり、熱を元に戻す。
熱Qの移動は可変熱容量Cと温度Tの線形結合の基本式Q=CTで表現される。

この熱機関模型を思考実験で動かしてみる。高温(T1)物体から低温(T2)物体に熱を移動させて(行きの動作をさせて)、外部にエネルギーWoutを取り出す。この熱機関模型は温度T1の高温熱源に熱接触して可逆的に熱Q1を吸収する。基本表現式で

   Q1=Cin T1

と表現する。Cinは熱機関が熱を吸収して蓄える可変熱容量になる。熱機関模型は仕事エネルギーWoutを出力して、低温T2の熱源に接触して可逆的に熱Q2を放出する。これを熱機関の可変熱容量Coutを使って

   Q2=Cout T2

と表現する。このとき、エネルギー保存が成り立つ。これは

   Wout=Q1-Q2

と表現する。次に熱機関模型を逆に動作させる。低温熱源から熱Q2取り出し、外部からエネルギーWinを入力して、熱Q1をもとの高温熱源に戻す動作(帰りの動作)をさせる。このとき、失ったであろう損失エネルギーLがあると仮定して、これを補って、Q1を戻すとする。すると、損失分LだけWoutより余計にエネルギーを入力することになる。これは

   Win=Wout +L

と表現する。動作が可逆なら、損失はないので, 外部にエネルギー損の痕跡を残さない。
これを表現すると
    Win=Wout または L=0

3. 熱機関の動作
この熱機関模型で熱を移動させ、エネルギーを外に取り出す。熱移動の行きと帰りの一巡の動作させて元に戻らせるとき、損失を補う外部からのエネルギー補給がどのくらい必要かということを見積もる。熱源とやり取りする熱エネルギーと外部とやり取りする仕事エネルギーを「エネルギーの保存則」で表現する。高温熱源→熱機関→低温熱源を移動する行きの熱エネルギー関係は熱移動の基本式で

   Q1(行き)=CinT1    Q2(行き)=CoutT2 

   Wout(行き)=Q1-Q2(行き)=CinT1ーCoutT2 

と表現する。ここでCin, Coutは熱機関が熱を吸収または放出する機関の能力を示す変化可能な量「可変熱容量」とする。Q1は高温T1の熱源から吸収する熱エネルギー、Q2は低温T2の熱源に放出する熱エネルギーを示す。
 
低温熱源→熱機関→高温熱源を移動する帰り(元に熱エネルギーを戻す)の熱エネルギー移動を同じ可変熱容量を使って表現してみる。

   Q2(帰り)= CinT2   Q1(帰り)= CoutT1 

   Win(帰り)=Q1-Q2(帰り)=CoutT1ー CinT2  

熱機関の具体的な機械構造や動作とは関係なく、以上はエネルギー保存則を表現している。

この熱機関模型の一巡の動作を使って、熱機関の損失や利用可能なエネルギーを見積もってみる。

(1) 一巡動作させるときに外部から補った損失エネルギーLを見積もってみる。
外に放出したエネルギーWoutに損失エネルギーを補い、外部から熱機関にエネルギーWinを入力し、熱機関を逆動作させて、熱エネルギーをもとの高温熱源に戻すことをさせる。
この逆動作をエネルギー保存則で表現すると

   Win=Wout+L(損失エネルギー)

の関係が成り立つ。補うので「損失」という言葉を使った。
もし一巡動作が可逆動作なら損失は無いから補うエネルギーは不用になる。不可逆な動作があれば失った気分のエネルギーなので、損失という言葉を選んだ。
損失エネルギーLを熱機関模型の可変熱容量の能力を使って以下の表現を得る。

   L=WinーWout=CoutT1ー CinT2 ーCinT1+CoutT2 =(Coutー Cin)(T1+T2)

もし損失が無い可逆な熱機関であるならそれを損失L=0で表現する。この表現を変形すると

   Cout=Cin または Q1/T1=Q2/T2 または  T2/T1=Q2/Q1

という損失のない熱機関のいくつかの表現が導かれる。

(2) 熱機関模型を用いて熱源から外に取り出せる仕事エネルギーを見積もってみる。
熱機関が熱源から熱エネルギーQ1を吸収しエネルギーWoutを外部へ仕事として出力する。損失L=Oとして可逆動作する理想的な熱機関が出力する最大の出力エネルギーを見積もる。
可逆動作の表現「Q2=Q1T2/T1」を代入して

   Wout=Q1ーQ2=Q1(1-T2/T1)

の表現が得られる。可逆動作の別の表現

   Cout=Cin = C

を用いると出力できる仕事エネルギーWoutの別の表現

   Wout=Q1ーQ2=C(T1-T2)

が導かれる。高温熱源の温度T1が高いほど、低温熱源のT2が低いほど、出力エネルギーWoutは大きくなる。
損失Lがなければ、熱機関が熱エネルギーを移動させる動作を一巡するのに外部から補うエネルギーは不用だ。従って、熱機関の可逆動作と損失L=0は、同じ意味の表現になる。損失L=0ならば利用できる熱エネルギーが最大になることは直感するだろう。
理想的に損失がない可逆動作で、外部に影響を残さずに状態の逆戻りができると、一巡動作の時間の前後の区別がない。可逆動作する熱機関の時間経過はないことになる。このことを仮想することが理解に必要になる。

(3) 外部へ仕事エネルギーを出力しないと何が起きるかを見積もる
熱源からエネルギーQ1を吸収して、何も仕事を外部に出力しないで(即ち、Wout=0)、Q1の熱を低温の熱源に放出したとする。それはQ2=Q1=Qと表現できる。従って、その表現の変形から下記の表現が導かれる。

   Wout=Q1ーQ2=CinT1ーCoutT2=0 または CinT1= CoutT2  または Cout=CinT1/T2

何も仕事を放出しないと熱機関の処理能力Cが保存されず歪められる。もう元に戻れない、持続ができない。
歪めてしまった量に相当する損失エネルギーLは表現を変形させて

   L= WinーWout=(Coutー Cin) (T1+T2)

   =Q (1/T2-1/T1) (T1+T2)

   =Q (T1/T2-T2/T1)
    
と表現される。歪めたときの損失エネルギーLは熱源の温度比T1/T2に比例して大きくなる。温度比が大きいときT2/T1は無視できるのでL=Q(T1/T2)の表現が得られる。
何も仕事をしないで、熱エネルギーを高温から低温の熱源に放出すると歪み損失Lは温度比(高温/低温)に比例して大きくなる。熱を逆戻りさせるには、外から損失を補填するための大きなエネルギーが必要になる。
価値を生まない無駄使い給付金が貯金されて死に金になる社会現象に相当する。熱力学が社会現象に重なると直感していたが、こんな式になって現れたのは、この付録を書いていて私自身が驚いた。

ここまで用いた熱機関の熱容量Cin,Coutは熱機関模型が有する能力の可変熱容量として説明してきた。中学校と高校の理科にでてくる物の比熱と同じ位置づけである。
比熱は物に固有で一定値だが、変化できることが違う。付録図-1、付録図-2の熱機関模型を見ると用いたQ=CinT1という基本式はイメージしやすいだろう。
熱機関模型の動作を分かりやすく説明するのに用いた言葉が可変熱容量であった。ここまで説明が進むと、最初に熱力学の用語として説明したエントロピーSという用語の意味が分かり始める。
熱力学の教科書に登場するエントロピーSは

   Q/T=S または Q=ST

と定義されている。これと比較すると、 この付録で登場させた熱機関模型の可変熱容量CinはエントロピーSの変化に相当すると気づくだろう。
エントロピーという用語は温度Tの「もの」の量を示すもので、変化した量はδSで表す。付録図-2で採用した可変熱容量Cin,Coutも変化する量として用いた。
熱機関模型が採用した可変熱容量を、ここからは熱機関のエントロピーの変化量の記号に置き換えてみる。

   δSin=Cin

   δSout=Cout

熱機関模型の熱の一巡の動作で得た熱のエネルギーの移動と外部への仕事エネルギー出力、外部からの損失エネルギーの入力の関係を熱機関のエントロピー変化に置き換えた記号で表現すると、以下の表現式に置き換わる。
熱エネルギーと温度、エントロピーを使って、出力エネルギーと損失エネルギー表現式は、美しい形になった。美しいだけでなく、表現式は社会現象の説明に適したものになった。

1)損失エネルギーLの表現は熱機関のエントロピー変化δSin とδSout を用いて

    損失エネルギーL=(Coutー Cin) (T1+T2)= (δSoutー δSin) (T1+T2)   (A-1)

2)可逆に熱が移動による熱機関の表現は 
 
    損失エネルギーL=0  または Q1/T1=Q2/T2 または δSoutーδSin =0 (A-2)


3)損失のない熱機関の最大出力エネルギーの表現は 

    Wout=Q1-Q2=Q1 (1-T2/T1)=Q1(T1-T2)/T1   (A-3)

4)出力エネルギーが無い熱機関の表現は、熱が何も出力せずに低温熱源に移動するので(Q1=Q2なので)

    Wout=Q1-Q2=0 または δSoutT2=δSinT1   (A-4)

5)出力エネルギーが無いとき損失エネルギーLの表現はQ1=Q2=Q= δSin T1= δSout T2であるから 

    損失エネルギー L=(δSoutー δSin) (T1+T2) =Q (1/T2-1/T1) (T1+T2)  

       = Q (T1/T2-T2/T1)            (A-5)

3. エネルギー浪費の社会現象と熱力学

付録図-3にエネルギーの浪費の例を示す。薄い境目を通して、僅かな熱が、高温物質1から低温物質2に移動する。
物質1,2がもつ熱量に比べて僅かな量の熱Qが移動(放熱/吸熱)するとして、もとの温度T1,T2に影響を与えないモデルとする。物質1は熱Qを放熱する。同じ熱Qを物質2が吸熱する。形も変わらず、静かに熱が移動する。
低温の物質2に移動した熱Qのエネルギーは高温の物質1に自然に戻らない。熱が移動したとしても、物質1と2の全体のエネルギーは保存されている。(ここで設定したモデルは仮想的なもので現実にはない。外に何の影響も残さず熱を移動できないからだ。お湯と水を単純に混ぜる場合でも、対流が起きるし、容器と水の摩擦や、空気の振動もあるので、外に影響を与えてしまう。)

付録図-3 高温物質1から低温物質2に外部に影響を残さず熱Qが移動する模式図。

外にエネルギーを出力しないときの損失エネルギーLの表現式A-5 を再掲載すると

   損失エネルギー L= (Q/T2ーQ/T1) (T1+T2) =Q(T1/T2ーT2/T1) (A-5)

高温物質の温度T1>低温物質の温度T2なので、T1/T2比に比例して損失エネルギーLは大きくなる。Q/T2ーQ/T1の項はエントロピーの変化を表す。エントロピーの増大が逆戻りさせない(逆戻りに必要な補填)エネルギーを増大させる。しかも増大の倍率はT1/T2比に比例するので、逆に戻るための必要エネルギーは増大する。もとに戻るために補充が必要な損失エネルギーがエントロピー増大に一致することが直感できるだろう。即ち、移動した熱Qが大きいほど、また温度比(T1/T2)が大きいほど、損失エネルギーが大きく、またエントロピー増加が大きい。この部分を付録図-4に示す。
損失が大きいほど不可逆の程度は増大する。また、不可逆であることは時間の不可逆にも対応するのでエントロピー増加は時間経過を表す。
この式のエントロピー増加は数値で表現されている。これが情緒的な言葉である「歳を取る」ことや「疲労する」というような、「逆戻りできない現象、即ち不可逆な現象」と重なる。

これをもう少し拡張してエネルギー浪費と社会現象を重ねてみる。質を表す尺度の温度Tを人の生きる元気度、熱Qをお金というエネルギーに対応させる。
元気のない(温度が低い)人にお金を移動させたとする。移動した(借金や貸付けた)熱Q(お金)は自然には元気のいい人に戻らない。黙っていると放置になる。
また、元気のいい現役から集めた税金をお金を使う気のない高齢者や裕福すぎる人に支給したとする。そのお金は消費されない。預金になったり、タンスに蓄えられることが起きる。
お金をある人から、ない人またはいらない人に単純に移動させても、外部に影響を与える行動の消費にまわらなければ、新しい価値を生み出す仕事エネルギーが生まれない。
最近、税金を使い、生活困窮者を含む全国民に単純にお金を支給することがあった。一部は消費に使われた。が、殆どが使われづに何も生まなかった。このことは、表現式A-5が説明する熱力学と社会現象が重なる事例になる。

付録図-4温度T1の高温物体から温度T2の低温物体に熱Qが外部に影響を与えずに移動した時の損失(逆戻りに必要な補充エネルギー)と温度比T1/T2依存性。
損失Lが大きいほど逆戻りできない。ここでT1>T2であるから常に損失L>Oまたエントロピー変化>0である。
物事は常に損失が起きる状態に向かって、時間経過する方向に変化する。

表現式A-5が教えてくれる社会現象の例をもう一つあげておく。
よく間違った解釈がされることわざとして「情けは人のためならず」というのがある。間違った解釈は、情けをかけることは、本人の努力を押し込んでしまうからその人の為にならないというものだ。
この、一見間違ってる解釈を付録図-4を示している。即ち、間違っていないことを示している。
外部に何も仕事エネルギーを取り出さず物体に熱エネルギーを移しても復活させるのに必要なエネルギーが増すだけという法則を示しているからだ。社会現象の言葉に変えるなら「給付金は人の為ならず」という解釈が正しいことを支持するのが熱力学の法則の表現式A-5ということになる。
ことわざの解釈は間違っていても、生活実感として、それは実態を正しく言っていたことになる。

高温物質1から熱エネルギーをQ (Q1)を取り出して一部を低温物質に可逆的に移動させて外部に仕事エネルギーを放出させる表現式A-3を再掲載すると

   Wout=Q1ーQ2=Q (1-T2/T1) = Q (T1-T2)/T1      (A-3) 

高温物質の温度T1>低温物質の温度T2なので、温度T2が低いほど可逆的に取り出せるエネルギーWoutは大きくなる。これを付録図5に示した。
Woutは別の熱機関に利用して、熱を低温から高温に移すことができる。この再利用して高温に戻れる熱エネルギーがあると言うのは、社会で言えば恩義の様なものである。恩義が残っていると、そのエネルギーはまた恩返しのように元の高温物質に戻すことができる。
もちろんこれは仮想的なことではある。熱力学の外部放出このエネルギーは、ここでも、ことわざの「情けはひとのためならず」というのに対応していると感じた。
このことわざの正しい意味は、人に情けをかければ、やがて自分に返ってくる、と言う意味だ。適切に助けてあげると、やがて恩返しのように自分に恩恵が戻ってくる、というのだから恩義はWoutのようなものに直感していた。
このことわざは、間違いの解釈と正しい解釈の2通りの解釈をされていた。この2通りの解釈を熱力学は支持している。

付録図-5温度T1の高温物体から熱をQ取り出し温度T2の低温物体に一部を可逆的に移動させて放出できる最大の仕事エネルギーの温度比T2/T1依存性。
T2/T1比が小さい外部に放出して再利用できるエネルギーが大きい。

4. 熱力学入門で得られた知識の整理
以上、社会の損失に相当するエネルギーを組み込んだFURUMURAの熱機関模型を使って高温熱源から低温熱源に熱エネルギーを移動させるとき、最大エネルギーを取り出す表現A-3や、何もエネルギーを利用しない消耗するだけの表現A-5を導いた。
最大にエネルギーが利用できるのは損失のない可逆動作をするときであった。このときのA-3式を見ると第2章で説明した「質の差(T1-T2)が活力エネルギーを生む」というのが分かる。また、最大に消耗するとき損失エネルギーLは熱源の温度比(高温T1/低温T2)に比例して大きくなるのが表現A-5で分かる。
この知識をもとにすると、直感的に社会の現象が見えてくる。社会の活力を熱機関の温度に対応させ、エネルギーをお金に対応させると、これは、一般の生活感覚と符号する。社会現象と類似性があるのは、熱の移動が可逆か不可逆か、エネルギーを外に出力するかどうか、エントロピーという量が増えるか減るか、これらが社会現象に重なっているからだ。
また表現式A-3を見るとT1=T2の時は熱Qの移動があったとしても、放熱と吸熱が打ち消し合って、見かけ上熱の移動が起きてないのと同じだ。
物質1から物質2に熱の移動があってもこの場合、熱Qにラベルがないので状態変化を区別できない。熱エネルギーの可逆移動があっても外への仕事Wout=0である。また、このとき、表現式A-2を見るとエントロピー変化(δSout-δSin)=0 である。即ち状態に変化が起きない。
社会現象に対応させるなら金持ち同志(同温同志)でお金(熱)の貸し借りをしても、恩義も生じないというのが直感できる。
高温物質をお金持ちの人に、お金を熱エネルギーに、再利用可能な出力エネルギーを恩義に例えて社会現象に対応させたが、対応のさせ方を選ぶと、社会現象を表現式でいろいろ説明できそうだ。
物質は人でなくても組織だったり、会社、国のレベルで選ぶことができる。高い温度は活力や健康欲、願望、生存欲、征服欲に例えて選ぶこともできるだろう。選び方によっては、逆の質を持つ羨望や、貧困、敵意のようなものも選べそうだが、その時はエネルギーの担い手は表現式に当てはまるように選ぶ必要がある。

以上、熱力学の入門の部分を社会現象に重ねられるFURUMURAの熱機関模型で説明してみた。これで熱力学の教科書にはない説明ができた。
大学に入学して1年生の教養学部で一般的な熱力学の講義を受けた。ただノートをとるだけで精一杯で理解は及ばなかった。今になって考えると理解できなくても仕方なかった。今だったら、その分からなかった部分は分かるように生徒に教えることができそうな気がする。
短い時間に何でも学ばせる当時の教養部の授業だったので、すべてが難しかったという思い出だけが残っている。第1章の真実と表現の考えは高校2年のときに、数学に悩んだ末に、たどり着いた原理だった。この原理は熱力学を理解するために役にたった。
この原理は社会の出来事の理解にも通用する。心の中にある真実は出来事として表現されるからだ。
第2章、第3章の質の違いがエネルギーを生み出すことは社会現象として直感していた。熱力学を人に分かるように説明しようと思ったことが直感が生まれた理由を探り当てた。2年近く続いた本コラムはここで終わるが、コラムの執筆は大学1年から悩み続けた熱力学の頭の整理に役にたった。

付録終わり

[ Author : Y. F. ]

新着記事